ブログ
ボタニカルアート展こぼれ話②「ドクダミのひみつ」
前回の記事で、江戸時代の広島で作られた本草書(薬用植物書)『山県草木志』を紹介しました。
記事はこちら→ボタニカルアート展こぼれ話①「江戸時代の薬用植物」
この本には山県郡を中心とした445種類の植物の特徴が記されています。その中から今回は、「ドクダミ」という植物を取り上げてみましょう。
本の中で、ドクダミは別名「じゅうやく」と呼ばれています。その理由として、
根を取り、病気の馬に与えると十種類の薬の代わりになることから、「十薬」と呼ばれる。
とあります(※原文を現代語に訳しました)。
昔は、馬の病気を治療するために使われていたのですね。
現代でも、ドクダミの葉や茎を乾燥させたものが「十薬」という漢方薬として販売されています。煎じて飲むと、便通を整え、利尿作用があります。ほかにも解熱・解毒の効果があると言われています。また、美容にも良いとされ、化粧水として肌につけると、にきびやシミ・そばかすを防いでくれるそうです。まさに「十薬」、万能薬として活躍する植物です。
さらに、本書ではドクダミの地元での呼び名も紹介されていて、「にゅうどう草」といいます。漢字で書くと「入道」でしょうか。最初に思い浮かんだのは、こんな妖怪
『稲生物怪録』より、一つ目入道
『百怪図巻』より、見越入道
坊主頭の妖怪、入道です。恐ろしい姿ですが、ドクダミと関係があるのでしょうか。
実は、ドクダミにはたくさんの地方名(方言名)があり、全国で200種類以上が記録されているのですが(『日本植物方言集成』2001)、その多くに不気味な名前がついています。たとえば、ジゴクソバ、ヘビコロシ、シビトバナ、テクサレ、ドクグサ・・・このような名前を付けられたドクダミが、なんだかかわいそうになってきますね。
ドクダミはあまり日の当たらない薄暗く湿った場所を好み、独特な臭い匂いを放ちます。このような性質から、昔の人は、ドクダミがあたかも毒草であるかのような印象を与える、気味の悪い名前をつけたのかもしれません。
ところで、ドクダミの花は何色だと思いますか?もちろん白色!、ではありません。 4枚の白い花びらに見えるものは、葉が変化した苞葉(ほうよう)です。本当の花は、中央に集まっている小さくて黄色い部分です。先が3つに分かれているめしべと、それを囲む3本のおしべが1組で1つの花になっています。花には花びらもがく片もないのです。
ドクダミの花
ドクダミは梅雨が始まる前の5月~6月ごろに花を咲かせます。独特な匂いとともに、その姿を観察してみてください。
参考資料
・広島市立中央図書館編『山県草木志』1992
・八坂書房編『日本植物方言集成』2001
・深津正著『植物和名の語源探究』八坂書房,2000
・大場秀章監修『おもしろくてためになる植物の雑学事典』日本実業出版社,2001